【臨床心理士解説】発達障がいへの理解と思いやり

心理系コラム

発達障がい(神経発達症)はよく知られる言葉になりましたが、日本で発達障がいが一般的に知られるようになったのは比較的最近のことです。1960年代から1970年代にかけて、日本でも発達障がいに関する研究が始まりましたが、一般的な認知や理解はまだ不十分でした。

1990年代に入ると、特にアスペルガー症候群や自閉症などの発達障がいについての情報が国際的に広まり、それに伴って日本でも関心が高まりました。この頃から、発達障がいに関する診断や支援が進展し、教育現場や医療現場でも認識されるようになりました。

アメリカやイギリス、オーストラリアでは発達障がいに関する研究が盛んに行われ、研究機関や医療機関、政府機関などが連携し、発達障害の研究と支援に取り組んでいます。

2000年代以降、日本でも発達障がいに関する啓発活動や支援体制の整備が進み、一般社会においてもその存在が広く認識されるようになりました。2024年現在では、学校や職場、社会全般において、発達障がいの理解やサポートが重要視されています。

発達障がいは現在では、”神経発達症”と名前を変えています。しかし、「発達障がい」という名前の方が浸透しているため、以後も「発達障がい」とまとめて記載します。

芸能人やYoutuberがASD、ADHDなど特性を公表する

発達障がいが知られるようになり、芸能人やYoutuberでも自身の発達障害を公表するようになりました。私が知っている中では、栗原類さん(ADHD)、エハラマサヒロさん(ASD+ADHD)、プチプラのあやさん(ASD+ADHD)がいらっしゃいます。

その他でも、メディアを見ていると「この人はもしかしたら、そういう特性があるのではないか?」と思うことはあります。しかし、発達障がいの方は環境が合えば適応できるし、非凡な才能を示すこともあります。

偉人で言うとアインシュタイン(物理学者)や、レオナルド・ダヴィンチ(画家)、ニュートン(物理学者)もコミュニケーションの苦手さや、行動特性から、ASDだったのではないか?と言われています。こだわりが探究心の強さとなり、大成した例です。

また、偉業を成し遂げないまでも、今も昔も、コミュニケーションはあまり取らず、自分の作業に没頭する職人さんも存在してきました。現代であれば発達障がいと勝手にラベルづけされていたかも知れませんが、昔はそんな定義がなかったので、「変わった人」で終わっていたし、社会での居場所もきちんと確保されていたと思います。

現代は、”物を作る”だけに特化した仕事はかなり少なく、どんな仕事でもある程度のコミュニケーションを求められます。発達障がいの人にとっての苦手な部分が、今では必須のスキルになってしまっているという現状があるのです。

発達障がい(神経発達症)の定義

広島県公式HPより引用

アメリカの精神医学の診断基準DSMー5(2013年〜)では神経発達症という区分になりました。大きく分けると、以下の分類になります。

【神経発達症】
・IDD (知的発達症)…IQ70未満、知的能力が低い
・ASD(自閉スペクトラム症)…コミュニケーションが苦手、こだわり、興味関心の狭さ
・ADHD(注意欠陥・多動症)…注意散漫、落ち着きがない
・SLD(限局性学習症)…読み書き計算で、学習に困難がある
・DCD(発達性協調運動症)…手先や身体を動かすのが極端に苦手

学校場面で言うと、IDD の子どもたちは特別支援クラスに在籍していたり、特別支援学校(養護学校)に通う子どもたちもいます。また、乳幼児健診などで言語面、運動面においても遅れが指摘されることも多いため、幼少期に診断を受けることも少なくありません。

知的な遅れを伴わない、一般的に「発達障がい」と呼ばれるのが、神経発達症の中では、ASD、ADHD、SLD、DCDとなります。これらは重複して存在する場合もあります。これらの発達障がいの子の場合、通常学級に在籍し、特に目立って問題が指摘されないこともあります。しかし良く見てみると、能力のばらつきがあるため、〜〜の時はいいけど、〜〜の時はダメ、のように場面によって出来ることと出来ないことに差が出てしまうことがあるのです。

アスペルガー障がいという言葉も聞いたことがある人も多いと思います。アスペルガー障害は、言語能力に遅れがない発達障がいと分類されていましたが、DSMー5ではアスペルガー障がいという言葉はなくなり、ASDに集約されています。自閉スペクトラム症(ASD)のスペクトラムとは連続体を意味します。上の図、色のスペクトラム表は美術の教科書なんかで見覚えがあるかと思います。ASDにもこだわり強弱や、過敏性の強弱など、様々なグラデーションがあると考えられてています。アスペルガーもこの連続体のどこかに位置すると考えられています。

できること、できないこと、その間にあること

発達障がいの人には、能力のばらつき、凸凹がある、と言われます。知能検査で明らかになることが多いです。例えば高い言語能力の一方で、動作性の能力がやや低いことがあります。聞いたり、話したり、頭では理解できるけど、非常に不器用で作業に時間がかかるパターンの人もいます。できることと、できないことが出てきてしまうのです。

Xでこんな投稿があり、私も真理をついていると同感しました。

吉川徹先生は児童精神科医で発達障がいを中心とした子どもの精神医療に長く従事され、NHKなどメディアでも分かりやすく説明していらっしゃいます。

発達障がいの人の場合、学校生活や、社会生活など、経験値を積むことで出来るようになることも多くあります。しかし、”できるけど疲れる”この部分を周りが少し理解してあげれると良いと感じます。

これは発達障がいの人だけではなくHSPの人にも同様のことが言えると思います。

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誰にだって得意なこと、不得意なことはあります。発達障がいの方はそれが極端になっている状態です。できるーできない、の間にある”できるけど疲れる”こと、”努力してできている”ことがある、誰に対してもそのような思いやりがもてたり、優しい声かけができると、もう少し生きやすい社会になるように思います。

家族が発達障がいかも?と思ったら

オンライン相談でも、「子どもが発達障がいではないか?」「夫が発達障がい傾向がある」「自分自身、ADHDがあって」と話される方は多いです。一般的に発達障がいが知られるようになり、更にインターネットでも情報を得ることが出来るようなったことも影響しています。

発達障がいの子ども、2022年の文部科学省の調査によると、通常学級における発達障がい傾向のある児童は約8.8%。25人学級では、2.2人の割合になります。成人になったと仮定すると、50人規模の会社であれば4.4人、100人規模の会社であれば8.8人の割合となります。

2016年の厚生労働省の調査では、発達障がいと診断されたのは48.1万人でした。診断がついた方なので、受診していない方は含まれておらず、この数字よりも多いことが推察されます。

「自分自身が発達障がいではないか?」と心配され、日常生活や仕事において、問題を感じている場合は、私は受診を勧めます。精神科、心療内科を受診する場合には、心理検査が可能かどうか確認しておくと良いでしょう。発達障害の診断には、よく知能検査や質問紙検査が実施される場合が多く、診断にも有効ですが、ご自身の困りごとを解決する上でも良い材料になります。そのため、検査を受けることが出来るのかを確かめた上で受診されることをお勧めします。

一方、子どもや夫など家族や周りの人が発達障がいではないかと考える場合、その人自身が受診しないと診断することは難しいでしょう。その時必要になるのが、本人に困り感があるかということです。いくら周りや家族が困っていても、本人にとって今の状況が困っていない、特に問題がない、と感じていることも大いにあります。病院での心理検査では、自覚がないと得点に反映されないものもあります。”本人の困り感”と言うのが非常に大切です。

そのため、学生時代には何も困らず過ごしていたにも関わらず、大人になって、社会に出てから、「困った」状況になり、受診し、発達障害と診断されることが増えています。学生の時は、時間割やカリキュラムがある程度決まっているし、それをこなすことが出来れば、それほど問題を感じないこともあります。対人関係についても、一人で居ても大丈夫だったり、長年付き合ってきた友人であればある程度分かって付き合ってくれていたりもするので、こちらでもそんなに問題を感じないでしょう。しかし、一度社会に出ると、自分でやることを決めて行ったり、効率化を図ったり、新しい人と関係を築いていく必要があります。そういった際に、出来ない、困った、と状態になることが多いのです。

発達障がいを理解し、付き合っていく

ご自身が発達かも?と思う人は、まず自分自身の理解を深めましょう。どういうことが苦手で、どういうことが得意なのか。そして、それを周りに分かってもらう努力もある程度は必要です。自分のことを分かってくれる人を増やす、これは誰にとっても過ごしやすい環境を作ることにつながります。万人に分かってもらえなくても良いのです。この人なら相談できるとか、この人なら話を聞いてくれる、そういう人との繋がりは生きることを支えてくれます。

自分ではなく、家族、周りの人が発達かも?と思う人の場合、発達障がいについて理解することが大切です。概念的な理解も必要ですが、その人なりの努力を汲み取ってあげられる、そんな社会になると望ましいです。

発達障がいの人に対しては具体的に簡潔に伝えることが大切です。して欲しいこと、してはいけないこと等、具体的に言葉で伝えましょう。「ちょっとキツくなってしまうな」と感じる人は、メモにしたり、「ちょっと厳しく聞こえるかも知れないけど、大事だから言うね」とワンクッション置いてから伝えることも良いでしょう。

社会は誰かが出来ないことを他の誰かがしてくれることで回っています。発達障がいの人も、HSPの人も、そうでない人も、誰かのためになり、社会が成り立っていると捉えらえると良いです。

くらしま心の相談室では発達障がいの相談ができます

カウンセリングを担当する心理士は長年精神科で発達障がいの方の相談を受けたり、心理検査を実施してきました。お話を聞くことで、お困りごとを一緒に整理し、明日からのエネルギーになるように、全力でサポートしていきます。お気軽にお問い合わせください。

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